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ヌルデ
Rhus javanica var. chinensis

 低山から低地の河原や林縁といった明るい場所に生え、高いものだと10mほどになる小高木です。奇数羽状複葉は長さが30〜70cmと長く、明瞭な重鋸歯が目立つ3〜6対の小葉は長さ5〜15cmで裏には軟毛が密生しています。小葉に重鋸歯があるのと葉軸に翼があるのが特徴的で、その姿が似ているウルシ属のヤマウルシやハゼノキなどとも区別が容易です。8〜9月に小さな白い花を多数咲かせます。10〜11月には果実が黄赤色に熟し、白い物質を分泌します。樹皮は褐灰色で皮目が目立ちます。[1][2]

虫歯予防

 古くから用いられていたお歯黒。平安時代には皇族や貴族の男女また未婚既婚に関係なく歯を黒く染めており、その風習は武家にまで広がっていきました。江戸時代には一般の人々にも広がり既婚女性の印として用いられます。中国や東南アジアなどでもお歯黒は存在していましたが、いずれも材料は第一鉄(Fe2+)と植物性タンニンの化合物です。国内では酢酸第一鉄(Fe(CH3CO2)2)とタンニンを約60%含有する「付子粉(ふしこ)」が使用されました。この付子(五倍子)の元がヌルデです。ヌルデの幹で孵ったタマワタムシ科のヌルデシロアブラムシ(ヌルデノオオミミアブラムシ)の雌はその新芽にて単性生殖を繰り返しますが、その際に吸汁された翼葉に虫えいが発生し大きく肥大化します。数個の突起があって大きさが30〜60mmあり、細毛で覆われ黄緑色をしていますが中には赤味を帯びるものもあります。この虫えいを一般には付子または五倍子(ごばいし)、学名はヌルデミミフシ(ヌルデノオオミミフシ)と呼びます。付子粉はこの虫えいを湯通しして乾燥させたものを粉状にした物です。歯槽膿漏や虫歯の予防効果がお歯黒にあることがわかっています。タンニンの効果で細菌の侵入を防ぎ、第一鉄が耐酸性の向上せさます。また、歯を綺麗に染めるために歯垢を取り除く必要があったことも大きな要因です。[3][4]

民俗と関係の深い樹木

 先駆樹種であるヌルデの種子は鳥散布によって散らばり、年間を通して表土に埋土種子があって20年以上も発芽能力を保持ているそうです。陽を得られると発芽、多種に先駆けて急激に生長します。最初の1年で樹高が1mにも達しますが、その後の伸びは緩慢です。埋土種子の表土シードバンクを利用した緑化施工ではよくヌルデの個体が出現しています。水平根による栄養繁殖でも個体を増やすことがわかっています。韓国南部の森林での調査によると、クローン個体の平均対間距離は25m近くあり、中には50m以上離れたクローンもあったそうです。[5][6][7][8]

 果実は熟すと白い結晶で覆われます。この白い物質はリンゴ酸カルシウムで、酸っぱ塩辛い味で、昔は塩の代用にしていたこともあったとか。果実そのものも下痢や咳の薬として、先の五倍子は止血薬として用いられ、また小正月の行事として行われていた、豊作祈願や魔除けに用いられる農具の模型や木の棒を削った人形の材料にヌルデがよく使われていました。このようにヌルデは民俗に深い関わりがある樹木です。なお、ウルシ属はヌルデと同じ「Rhus」とされていましたが、分子系統学によってヌルデ属から独立し「Toxicodendron」となりました。[9]

リンゴ酸カルシウム(C44Ca5

参考文献
  1. 林将之(2004)『葉で見分ける樹木』小学館
  2. 茂木透ら(2009)『樹に咲く花―離弁花(2)(第2版)』山と溪谷社
  3. 伊東隆夫ら(2011)『日本有用樹木誌』海青社
  4. 渡邊定元(1994)『樹木社会学』東京大学出版会
  5. 江連徹ら(1987)『お歯黒の概念および実例報告』「岩手医科大学歯学雑誌」12(2), pp.217―221
  6. 小畑秀弘ら(2007)『表土シードバンクを吹付けに活用した施工事例(V):エノキとヌルデを例に』「日本緑化工学会誌」32(4), pp.513―516
  7. 黒河内寛之(2012)『外来樹木ニセアカシア河畔林への在来木本種の定着:切土のり面における施工後4年の植生調査結果』「森林立地」54(2), pp.101―106
  8. Chung, M.G. et. al(2000)"Spatial distribution of allozyme polymorphisms following clonal and sexual reproduction in populations of Rhus javanica (Anac- ardiaceae)", Heredity, 84, pp.178―185
  9. 白瀧義明(2021)『野山の花:身近な山野草の食効・薬効』「New Food Industry」63(10), pp.779-782

Gallery

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樹形

軽井沢市(Aug. 18, 2011)

低山から低地の河原や林縁といった明るい場所に生え、高いものだと10mほどになる小高木です。

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樹形

宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

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宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

奇数羽状複葉は長さが30〜70cmと長く、明瞭な重鋸歯が目立つ3〜6対の小葉は長さ5〜15cmで裏には軟毛が密生しています。

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宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

8〜9月に小さな白い花を多数咲かせます。

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雌花

宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

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雌花

宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

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果実

山形市野草園(Sep. 5, 2021)

10〜11月には果実が黄赤色に熟し、白い物質を分泌します。

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未果実

宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

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樹皮

宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

樹皮は褐灰色で皮目が目立ちます。

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宮城県柴田町(Aug. 23, 2020)

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虫えい

山形市野草園(Sep. 5, 2021)

付子粉はこの虫えいを湯通しして乾燥させたものを粉状にした物です。

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虫えい

山形市野草園(Sep. 5, 2021)

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虫えい

山形市野草園(Sep. 5, 2021)

Property
分 類
和名 ヌルデ(白膠木)
別名 フシノキ(付子の木)、カチノキ(勝の木)、シオノキ
学名 Rhus javanica var. chinensis
(Syn. Rhus javanica)
(Syn. Rhus javanica var. roxburghii)
(Syn. Rhus semialata)
(Syn. Rhus chinensis)
ムクロジ目(Sapindales)
ウルシ科(Anacardiaceae)
ヌルデ属(Rhus)
分布 日本、南千島、朝鮮半島、中国、台湾、インド、東南アジア
国内 北海道、本州、四国、九州、沖縄
用途
特 徴
針広 広葉樹
常落 落葉樹
樹高 小高木
葉形 羽状複葉(奇数)
葉序 互生
葉縁 鋸歯
雌雄 異株(単性花)
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