北海道から本州までの冷温帯から亜寒帯にある湿地を中心に自生しています。
ヤチヤナギ
Myrica gale var. tomentosa
北海道から本州までの冷温帯から亜寒帯にある湿地を中心に自生しており、有名なのは標高1400mに位置する尾瀬ヶ原ですが、北海道では勇払原野や釧路湿原といった低地にも自生しています。樹高は高いものでも80cmほどで、樹皮は黒褐色、若い枝は暗赤色で皮目が目立ちます。葉が展開する前の5〜6月に花を咲かせます。雌雄異株で、雌株に咲く雌花は暗赤色の花糸が外に出ているのですが、小さな冬芽のようにも見え、色も茶褐色で目立ちません。雄株に咲く雄花は、松ぼっくりを逆さまにした形で黄色い雄しべが見えます。いずれも花被がなく、傘の形状をしているのは苞です。9月に熟す果実は、四面体が密集したような形をしている集合果です。葉の先半分に緩やかな鋸歯があり、葉の両面、葉柄や若い枝に白い軟毛が生えていてます。葉の両面や若い枝をよく見ると、淡黄色の点が散在しているのがわかります。これは油点で、ニッキと柑橘系の匂いが混ざったようなメントール系の香りがします。低地に生育しているヤナギに似た木としてその名がつけられたそうです。[1][2]
窒素固定と生態
ヤチヤナギの根には放線菌のフランキアが共生しています。大気中の窒素をアンモニアに還元する窒素固定バクテリアのうち植物と根粒共生をするものとして有名なのは根粒菌ですが、フランキアも同様な働きをします。特にフランキアが根に形成した根粒を放線菌根、その植物を放線菌根性植物と呼びます。ヤチヤナギは尾瀬ヶ原でその群落を拡大させており、その1つの要因がフランキアとの共生であると考えられています。集中豪雨による洪水の発生によって貧栄養的な湿原にリンが供給され、自ら窒素を確保できるヤチヤナギが特に低地で繁殖しているとのこと。さらにニホンジカが食さないことも影響しているようです。一部では勢力を拡大しているヤチヤナギも、生育地によっては狭い地域に残され、三重県の御池沼沢や愛知県の黒河湿地では絶滅危惧種に指定されています。これらの小集団で開花しているのは雄株しか見られず、種子ができていません。なおヤチヤナギは匍匐枝によって栄養繁殖することができます。ヤマモモ科(Myricaceae)の中でヤマモモ属とヤチヤナギ属に別けるに際して、科の名称をどちらに継がせるか検討されたのですが、ヤチヤナギ属の方がより化石種が多いということで、ヤチヤナギ属には(Myrica)を、ヤマモモ属が(Morella)となりました。[3][4]
香り
ヤチヤナギはメントール系の香りがしますがその芳香成分は、ゲルマクロン、デヒドロアロマデンドレン、リナロール、ゲラニオール、α-ピネンが主なものとのこと。リナロールはスズランの香り、ゲラニオールはゼラニウム、α-ピネンはヒノキ等の針葉樹の香り成分です。中世ヨーロッパでは近似種のセイヨウヤチヤナギ(Myrica gale var. gale)をハーブとしてビールの香り付けに使用していたそうです。ハーブを調合したものを「グルート」と呼び、それを用いて作ったビールをグルートビールと呼びます。近年では、ヤチヤナギを使ったグルートビールが地域おこし等として国内でも生産、販売されています。 [5][6]
Gallery
雌株に咲く雌花は暗赤色の花糸が外に出ているのですが、小さな冬芽のようにも見え、色も茶褐色で目立ちません。
9月に熟す果実は、四面体が密集したような形をしている集合果です。
葉の先半分に緩やかな鋸歯があり、葉の両面、葉柄や若い枝に白い軟毛が生えていてます。
淡黄色の油点が点々と見える。
枝にも油点がある。
樹皮は黒褐色、若い枝は暗赤色で皮目が目立ちます。
Property
| 分 類 | |
|---|---|
| 和名 | ヤチヤナギ |
| 別名 | エゾヤマモモ |
| 学名 | Myrica gale var. tomentosa (Syn. Myrica tomentosa) (Syn. Gale belgica var. tomentosa) |
| 目 | ブナ目(Fagales) |
| 科 | ヤマモモ科(Myricaceae) |
| 属 | ヤチヤナギ属(Myrica) |
| 分布 | 日本、千島、サハリン、東シベリア、朝鮮半島 |
| 国内 | 北海道、本州 |
| 用途 | |
| 特 徴 | |
|---|---|
| 針広 | 広葉樹 |
| 常落 | 落葉樹 |
| 樹高 | 小低木 |
| 葉形 | 単葉(不分裂) |
| 葉序 | 互生 |
| 葉縁 | 鋸歯 |
| 雌雄 | 雌雄異株(単性花) |